重症筋無力症の基礎知識


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1.縦隔と胸腺の解剖と役割

 縦隔(じゅうかく)とは左右の肺に囲まれた場所のことであり、心臓や気管や食道があります。その他に、大動脈や大静脈、神経、胸腺(きょうせん)があります。

 縦隔は範囲が広く、上方を上縦隔と呼びます。残りの部位は前・中・後と分けて、それぞれ前(ぜん)縦隔、中(ちゅう)縦隔、後(こう)縦隔と分類します。

 胸腺は胸骨の後ろに、心臓に乗るように存在します。形はH型です。胸腺は縦隔の前方に位置しているので、前縦隔に腫瘍を形成します。


2.重症筋無力症とは

 重症筋無力症(きんむりょくしょう)は筋肉の疲労感や脱力を起こす疾患です。

 運動を繰り返すことにより、目や顔や手足の筋力が低下し、休息により回復します。まぶたが下がって、目が細くなることがしばしばあります。

 重症筋無力症の治療としては、薬物療法と胸骨切開による胸腺摘出手術があります。手術を行うことにより、重症筋無力症による症状が軽快することを目標にしています。

 胸腺腫を同時に持っていることがあり、このときは胸腺腫に対する切除が必要です。

 重症筋無力症は、神経内科で診断と治療を行います。必要なら、呼吸器外科に依頼し、重症筋無力症の症状を改善するために胸腺を切除する手術を行います。

 重症筋無力症に対して拡大胸腺全摘術により切除した胸腺。向かって左上に1.5cmの胸腺腫を合併していた。

3.重症筋無力症のメカニズム

 神経は収縮の指令がくると、そのしっぽの先からアセチルコリンという物質を筋肉に対して放出します。筋肉はこの指令を受けて収縮します。アセチルコリンはコリンエステラーゼという物質ですぐに分解されて消失します。

 重症筋無力症では筋肉にあるアセチルコリンの受容体(感じる部分)に対して抗体が妨害をします。この抗体は抗アセチルコリン受容体抗体といいます。抗体は免疫の働きをする物質で、外界の物質から自分を守るために働きますが、この場合は自分に対して攻撃しているのです。

4.重症筋無力症の症状

 重症筋無力症は筋肉を使っていると疲れてしまう病気で、まぶたが落ちる、食事をかむのが難しい、飲み込むのが難しい、表情が作りにくい、字が書けない、階段が登れないなどの症状が出現します。

 筋肉を使用していると症状がでますが休むと回復します。夕方に症状が強いのが特徴です。

 胸腺腫は重症筋無力症という病気を合併することがあります。胸腺腫があればその症状があるかもしれません。

5.重症筋無力症の診断

 重症筋無力症の診断は、疲れやすいなどの症状、筋電図(きんでんず)上、連続刺激で筋肉収縮が低下する現象、血液検査で抗アセチルコリン受容体抗体が陽性、抗コリンエステラーゼ剤で症状が軽快するなどが重要です。抗コリンエステラーゼ剤はコリンエステラーゼの妨害をするので、アセチルコリンが残り症状が軽快するのです。

6.重症筋無力症の治療

 重症筋無力症の治療には抗コリンエステラーゼ剤の使用があります。これはアセチルコリンを分解しないので、症状が改善するのです。ステロイドは免疫を抑制する作用があります。

 外科療法として、免疫に関与する胸腺を切除することにより、長期的に症状改善を目指します。

 血漿(けっしょう)交換は抗アセチルコリン受容体抗体を除去する方法で、免疫抑制剤は免疫を抑制することにより作用します。

7.重症筋無力症と手術

 重症筋無力症には30%ほど胸腺腫を合併します。胸腺腫があれば、手術が必要です。手術で胸腺と周囲の脂肪組織を切除します。これにより胸腺腫の治療と重症筋無力症双方の治療になります。

 重症筋無力症に胸腺腫が合併していなくても、重症筋無力症の治療目的で手術を行います。60歳以下で、抗アセチルコリン受容体抗体が高く、症状が強い方がよい対象です。神経内科と相談の上、手術の必要性を決定します。

8.重症筋無力症の手術

 重症筋無力症の手術は全身麻酔を使用します。胸骨を縦に割って、縦隔に達します。心臓の前面に胸腺があります。胸腺と周囲の脂肪組織をかたまりとして心臓からはがして切除します。縦に割った胸骨は針金のような道具で固定します。

 前縦隔で心臓の上に乗ったように胸腺が存在します。胸腺全体と周囲の脂肪組織を切除します。図の斜線部が切除する部位です。拡大胸腺全摘術といいます。胸腺腫が存在しても同じ手術を行って胸腺腫の治療を行います。


2005年7月 文責:秋葉 直志