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胸腺腫と胸腺癌の病理と病期

2004年7月最新版(2003年9月29日更新)


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内容一覧 細胞分類
病期情報


細胞分類

以下の胸腺腫および胸腺癌の細胞分類は、主として1999年に出版された世界保健機関(WHOWorld Health Organizationの単行本で提示された分類方法に基づく。 [1] 胸腺腫の組織学的分類は、独立した予後的意義を持つことがあるが、病期分類は胸腺腫患者における生存期間の最も重要な決定因子である。 [2] [3] 対照的に、胸腺癌40例のあるさかのぼり研究(retrospective studyは、腫瘍の組織が胸腺癌患者における生存期間の指標として病期よりも重要であることを示唆している。 [4] 現在までのところ、胸腺腫または胸腺癌の独自の組織型と関連している独自の染色体異常は存在しない。 [5] [6] [7] [8]

胸腺腫

胸腺腫は、上皮構成部分が明らかな異型を示さない胸腺の上皮性腫瘍であり、正常胸腺に特異的な組織学的特徴を保持している。 [1] 未熟な非腫瘍性のリンパ球が、胸腺腫の組織型に応じてさまざまな数で存在する。胸腺腫の組織型は以下のとおりである:

  • A型胸腺腫

    A
    型胸腺腫(紡錘細胞胸腺腫および髄質胸腺腫としても知られる)は、すべての胸腺腫の約47%を占める。 [2] [3] 症例の約17%は、重症筋無力症と関連している。 [2] 形態学的には、腫瘍は、腫瘍性胸腺上皮細胞で構成されており,細胞は紡錘/楕円形で、核異型を認めず、存在するとしてもごくわずかな非腫瘍性のリンパ球を伴う.[1] この腫瘍の外観は、間葉系新生物の外観と混同されることがあるが、免疫組織化学的および超微細構造上の特徴は明らかに上皮性新生物の特徴である。ほとんどのA型胸腺腫は、被包性である(病期情報を参照のこと)。しかしながら、被膜に浸潤するものもあり、まれに肺にまで広がることもある。染色体異常が存在する場合は、侵攻性の臨床経過と相関しうる。 [8] この腫瘍型の予後はきわめて良好であり、さかのぼり研究(retrospective studiesにおける長期生存率(15年以上)は100%近いことが報告されている。 [2] [3]

  • AB型胸腺腫

    AB型胸腺腫(混合胸腺腫としても知られる)は、すべての胸腺腫の約2834%を占める。 [2] [3] 症例の約16%は、重症筋無力症と関連している。 [2] 形態学的には、AB型胸腺腫は、A型胸腺腫の特徴を有する病巣が非腫瘍性のリンパ球を多く含む病巣と混ざっている胸腺の腫瘍である。 [1] 異なる病巣の分離部分は、鮮明であることもあれば不明瞭なこともあり、2つの構成要素の相対的な量には幅広い範囲がある。この腫瘍型の予後は良好であり、2件の大規模さかのぼり研究(retrospective studiesにおける長期生存率(15年以上)は約90%かそれ以上であることが最近報告されている。 [2] [3]

  • B1型胸腺腫

    B1型胸腺腫(リンパ球優位型胸腺腫,リンパ球性胸腺腫、皮質優位性胸腺腫、類臓器性胸腺腫としても知られる)は、引用された研究から、すべての胸腺腫の約920%を占める。 [2] [3] 症例の約57%は、重症筋無力症と関連している。 [2] 形態学的には、この腫瘍は正常機能胸腺に類似するが、これはこの腫瘍が、胸腺の髄質に類似する領域を伴った,正常な胸腺の皮質との区別がほとんど不可能な外観を有する細胞を非常に多く含むためである。 [1] この腫瘍型と正常に活動する胸腺は極めて類似しているため、この2つの区別が顕微鏡検査で不可能なことがある。この腫瘍型の予後は良好であり、約90%の長期生存率(20年以上)である。 [2] [3]

  • B2型胸腺腫

    B2型胸腺腫(皮質胸腺腫および多角細胞胸腺腫としても知られる)は、引用された研究から、すべての胸腺腫の約2036%を占める。 [2] [3] 症例の約71%は、重症筋無力症と関連している。 [2]  形態学的には、この腫瘍型の腫瘍上皮成分は、非腫瘍性のリンパ球の大きな集団中に,小胞性細胞核で明瞭な核小体をもつ,散在性の円形細胞として出現する [1] 血管周囲腔は一般的であり、時に非常に顕著である。柵状化した腫瘍細胞の血管周囲配列がみられることがある。この型の胸腺腫は、そのリンパ球の優勢においてB1型胸腺腫と類似しているが、髄質分化の病巣はより目立たないか、みられない。長期生存率は、A型、AB型、およびB1型胸腺腫よりも明らかに不良である。この胸腺腫型に対する20年生存率(腫瘍死からの解放によって定義される)は、約60%である。 [2]

  • B3型胸腺腫

    B3型胸腺腫(上皮胸腺腫、異型胸腺腫、扁平上皮様胸腺腫、高分化胸腺癌としても知られる)は、すべての胸腺腫の約1014%を占める。症例の約46%は、重症筋無力症と関連している。 [2] 形態学的には、この腫瘍型は大部分が、円形か多角形であり、異型性を全く示さないか、わずかに示す上皮細胞で構成されている。 [1] 上皮細胞は、非腫瘍性のリンパ球のより少ない構成要素と混ざっており、腫瘍性上皮細胞の敷布(sheet)状の成長を来たしている。この胸腺腫型に対する20年生存率(腫瘍死からの解放によって定義される)は、約40%である。 [2]

胸腺癌

胸腺癌(C型胸腺腫としても知られる)は、もはや胸腺に特有ではなく、むしろ他の器官の癌において観察される,明確な細胞異型と一連の組織学的特徴を呈する,胸腺の上皮性腫瘍である。 [1] AおよびB型胸腺腫とは対照的に、胸腺癌には未熟リンパ球が欠如している。存在するリンパ球はすべて成熟しており、通常は形質細胞と混ざっている。胸腺癌は、既存の胸腺腫の悪性化から生じうるという仮説が立てられている。 [9] この仮説の出現は、同一腫瘍内における胸腺腫と胸腺癌の組み合わされた特徴を示す胸腺の上皮性病変の存在を説明できる。 [10]

胸腺癌は通常、診断時にすでに進行しており、胸腺腫と比較して高い再発率と不良な生存期間を示す。 [4] [11] 胸腺癌患者40人のあるさかのぼり研究(retrospective studyでは、5年および10年生命表法全生存率は、それぞれ38%と28%であった。 [4] 胸腺腫とは対照的に、胸腺癌と自己免疫疾患との関連はまれである。 [12]

胸腺癌の組織亜型には、以下のものがある:

  • 扁平上皮(類表皮)胸腺癌

    この型の胸腺癌は明確な細胞異型を示す。通常の染色した切片において、角化形態は細胞間橋および/または扁平真珠の形状で扁平上皮への分化の明確な証拠を同様に示すのに対して、非角化形態は角質化の明確な徴候を欠く。別の亜型である類基底細胞癌は、高い核-細胞質比および角化の欠如のために、周辺柵状化および全体的に好塩基性染色パターンを呈する腫瘍細胞の密集した小葉で構成されている。

  • リンパ上皮腫様胸腺癌

    この型の胸腺癌は、気道のリンパ上皮性癌のものとの区別不可能な形態学的特徴を有する。胚細胞腫瘍、特に性上皮腫(セミノーマ:seminoma)との鑑別診断が困難なことがあるが治療には重要である。

  • 肉腫様胸腺癌(癌肉腫)

    これは、腫瘍の一部または全部が軟部組織肉腫の一種に類似する胸腺癌の1つの型である。

  • 淡明細胞胸腺癌

    これは、光学的に明るい細胞質を持つ細胞で,優勢にまたは排他的に構成される胸腺癌の1つの型である。

  • 粘液性類表皮胸腺癌

    この型の胸腺癌は、大または小唾液腺の粘表皮癌の外観と類似した外観を持つ。

  • 乳頭状胸腺癌

    この型の胸腺癌は、乳頭状に増殖する。この組織学は砂粒小体(psammoma body形成を伴うことがあり、甲状腺乳頭状癌との酷似する。

  • 未分化胸腺癌

    これは、充実性で未分化に増殖するが、肉腫様(紡錘細胞または多形細胞性)の特徴を示さないまれな型の胸腺癌である。

  • 複合型胸腺腫

    上記の組織型の組合わされたものが、同一の腫瘍内で発生しうる。これらのケースでは、複合型胸腺腫という用語が使用され、続いて構成要素およびその相対的な量の列挙が続く。 [1]

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病期情報

胸腺腫の組織型分類は、生物学的に良性の胸腺腫と悪性胸腺腫を鑑別するには不十分である。浸潤の程度または腫瘍の病期が一般的に、全生存のより重要な指標と考えられる。 [1] [2] [3]

胸腺腫の浸潤性評価には、組織型とは別に隣接への浸潤の存在および程度、播種の存在、およびリンパ節または遠隔転移を示す病期分類規準の使用が含まれる。標準化された病期分類はないが、1981年に正岡が提唱した下記に示す分類法が一般的に使われている。 [4]

正岡の胸腺腫の病期分類体系

病期 記述
I 肉眼的に、完全に被包されている。顕微鏡的に、被膜への浸潤を認めない
II 周囲の脂肪組織または縦隔胸膜への肉眼的浸潤;被膜への顕微鏡的浸潤
III  隣接臓器への肉眼的浸潤(心膜、肺、大血管)
IVa 胸膜播種または心膜播種
IVb リンパ行性または血行性転移

本要約では治療について論じるために、これらの病期を非浸潤性または浸潤性に分類している。

非浸潤性

非浸潤性胸腺腫(I期)の場合、腫瘍は胸腺内に限局し、他の組織に拡がっていない。すべての腫瘍細胞が、腫瘍を取り囲む繊維性被膜の中に存在する。

浸潤性

局所浸潤性(II期)胸腺腫の場合、腫瘍は被膜を破り、脂肪または胸膜へ浸潤している。広範浸潤型(III期およびIVa期)の胸腺腫では、腫瘍が胸腺から連続的に胸部の他臓器へ浸潤している。腹部臓器への拡がりまたは血行性転移(IVb期)を発見時に認めることはまれである。

外科治療を受けた連続した85人の患者さんにこの病期分類を適用したところ、予後の決定に有用であることが確認され、I期の胸腺腫では96%の5年生存率、II期の胸腺腫では86%、III期の胸腺腫では69%、およびIV期の胸腺腫では50%であった。 [4] [5] 胸腺腫273例の大規模さかのぼり研究(retrospective study において、正岡の病期分類体系に従った20年生存率(腫瘍死からの解放によって定義される)は、I期の胸腺腫では89%、II期の胸腺腫では91%、III期の胸腺腫では49%、およびIV期の胸腺腫では0%と報告された。 [1]

正岡の病期分類体系が胸腺癌に対する転帰を精確に予測しないことを主張している研究者もいる。 [6] [7] 胸腺癌の43例を評価する1件のさかのぼり研究(retrospective study において、予後は腫瘍の腕頭動脈への浸潤にのみ依存することが明らかにされた。 [7]

胸腺腫の診断と病気分類を行う上で、特に非浸潤性腫瘍に対しては、コンピュータ断層撮影(CTcomputed tomography )が有用であろう。CTは通常、腫瘍径、病変部位のほか、血管、心膜、および肺への浸潤を正確に予測する。しかしながら、浸潤または切除可能性を正確に予測することはできない。 [3] [8] CT上の腫瘍の外観は、世界保健機関(WHOWorld Health Organization の組織型と関連していることがある。 [9] 胸腺の上皮性腫瘍に対する胸腺摘出を受けた患者53人を含むあるさかのぼり研究は、平滑な輪郭および丸い形がA型胸腺腫を最もよく示すのに対し、不規則な輪郭は胸腺癌を最もよく示すことを示唆している。石灰化は、B型胸腺腫を示唆する。しかしながら、この研究では、ABB1B2B3型胸腺腫の鑑別にCTの価値が限られていることが明らかになった。 [10]

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2004年7月最新版(2003年9月29日更新) 翻訳:秋葉 直志