胸腔鏡手術(VATS)とは

胸腔鏡手術(Video-Assisted Thoracoscopic Surgery:VATS)は、胸壁に小さな切開創(通常1〜3cm程度)を数か所作り、そこから細いカメラ(胸腔鏡)と手術器具を挿入して行う低侵襲外科手術です。カメラの映像をモニターで確認しながら手術を進めるため、外科医の技術と専用機器が必要ですが、日本の多くの基幹病院で標準的に行われるようになっています。

従来の開胸手術との比較

項目 胸腔鏡手術(VATS) 開胸手術(従来法)
切開の大きさ 1〜3cmの小切開を複数 15〜20cm以上の大きな切開
術後の痛み 比較的少ない 強い痛みが残りやすい
入院期間 概ね4〜7日程度 7〜14日程度
社会復帰 比較的早い(個人差あり) 時間がかかる場合が多い
出血量 少ない傾向 多い傾向
適応 早期〜一部の局所進行例 複雑な症例・浸潤例

VATSで行われる主な術式

肺葉切除術(ロベクトミー)

肺は右5葉・左3葉に分かれており、腫瘍が存在する葉ごと切除する手術です。肺がんの標準的な術式であり、根治性と残存肺機能のバランスを考慮した方法です。

区域切除術(セグメントエクトミー)

肺葉よりもさらに小さな単位(区域)だけを切除する方法です。腫瘍が小さい(概ね2cm以下)場合や、肺機能を温存したい高齢者・肺機能低下例に適しています。近年の臨床試験で早期肺がんにおける有効性が示されており、適応が広がっています。

楔状切除術(ウェッジレゼクション)

腫瘍周囲を楔(くさび)形に切除する最も縮小した術式です。腫瘍の位置や患者さんの状態によって選択されますが、リンパ節を含む系統的な郭清が行いにくいため、局所再発リスクについて慎重な評価が必要です。

ロボット支援手術(ダヴィンチ手術)について

近年、手術支援ロボット(ダ・ヴィンチシステム)を用いた肺切除術も普及しつつあります。関節機能を持つ鉗子アームにより、通常のVATSよりも精密な操作が可能とされています。対応できる施設が増えていますが、保険適用の範囲や施設要件があるため、担当医への確認が必要です。

術前に確認されること

  • 肺機能検査:切除後に残る肺で十分な呼吸ができるかを確認
  • 心肺運動負荷試験:手術に耐えられる体力があるかを評価
  • 全身状態・合併症の有無:糖尿病・高血圧・血液凝固異常などを確認
  • 禁煙指導:術前・術後の禁煙が回復を大きく左右します

術後の回復と注意点

  1. 術後は胸腔ドレーンを一定期間留置し、胸腔内の液体や空気を排出します
  2. ドレーン抜去後は歩行訓練・呼吸リハビリを開始します
  3. 退院後は定期的な外来フォローでCT・腫瘍マーカーを確認します
  4. 術後の息切れや咳が続く場合は早めに医師に相談しましょう

胸腔鏡手術は、適切な適応例であれば患者さんへの身体的負担を大きく軽減できる術式です。ご自身の状態がVATSの適応になるかどうか、担当医とよく相談してください。